1. はじめに:解答記述で立ち止まる理由
中小企業診断士の二次試験において、受験生の多くは「何を書けばいいか分からない」「思考が止まる」「書き始められない」といった壁に直面します。これは必ずしも知識の不足が原因ではなく、むしろ「文章を組み立てる手順」が定型化されておらず、思考が迷子になるためです。
特に、生産現場を扱う事例Ⅲでは、現場の実務知識も絡むため、どう構造化して書くかが鍵になります。実務経験があっても、それをそのまま記述してしまうと「与件無視」と判断され、評価につながらないこともあります。そこで効果的なのが、「文章の型(テンプレート)」を使って、思考と記述を分業化する手法です。
筆者も当初は、一問書くのに30分以上かかることがありました。しかし、型を使いこなす訓練を重ねることで、600字程度の設問を20分前後で書けるようになりました。これは、知識・アイデア量というよりも「どの型を使うか」「どう誘導線を引くか」という構造力の成果です。
本稿では、この構造力を鍛えるための枠組みを以下の流れで解説します。
- 二次試験に求められる文章力の3要素
- 文章の型──論理展開を支える枠組み(A/B/C)
- 解答文章を書く手順:ステップ方式
- 解答を磨く4つのコツ
- 型を体得するトレーニング法
さらに、後半には本事例Ⅲの与件概要と具体的設問を紹介しながら、それらを型に当て込みつつ解答を構築する方法を示します。
2. 二次試験に求められる文章力の3要素
文章力と言っても、一般的な作文能力だけでは不十分です。中小企業診断士の二次試験、特に事例Ⅲで求められる文章力には、以下の3つの要素が不可欠です。
(1) 冗長な表現を削ぎ落とし、キーワードを的確に盛り込む
設問文・与件文には、本試験で評価されるべきキーワードが埋め込まれています。例えば「工程改善」「進捗管理」「段取り替え」「生産性向上」などです。これらを漏らさず、かつ無駄な前置きや長文表現を削って、最短ルートで答案に盛り込む必要があります。
(2) 論理的な流れで採点者に意図を伝える
キーワードを並べるだけでは未完成です。「なぜこうすべきか」→「どういう影響があるか」→「結果どうなるか」という因果の構造を明示できてこそ、答案として説得力を持ちます。たとえば「段取り替え時間を短縮せず、稼働率が低下し、納期遅延につながっているから改善が必要」という流れを示すことが求められます。
(3) 制限時間内に書き切る力
内容がいかに優れていても、時間をオーバーすれば意味がありません。初見問題を、20分前後で構成→記述→推敲できるよう、あらかじめ「使える型」と「記述テンプレート」を体得しておくことが合格の要件です。
これら3つを満たすための軸が「文章の型」です。次章では、型の具体例を3パターン紹介します。
3. 「文章の型」──論理展開を支える枠組み
論理の流れを安定させ、答案を破綻させないための構造として「型(テンプレート)」を持つことが有効です。特に、次の3つの型が汎用性高く使えます。
3.1 パターンA:(切り口)は、①〇〇、②〇〇である
列挙・要素整理型の設問に有効です。設問が「何が課題か」「強みは何か」「要因を列挙せよ」などを問う場合に使います。
例文構造
(切り口)は、①〇〇、②〇〇、③〇〇である。
適用例(課題抽出型問)
「生産上の課題は何か?」 →
課題は、①段取り替えに時間を要すること、②進捗管理の曖昧さ、③熟練技能者依存による品質ばらつきなどである。
3.2 パターンB:(根拠)のため、(結論)と考えられる
設問が「どう評価できるか」「なぜそう判断できるか」「根拠を示せ」などを問う形式の際に使います。前半に根拠、中盤に「ため」、後半に結論を置きます。
例文構造
(根拠)のため、(結論)と考えられる。
適用例(評価型問)
「外注依存のリスクをどう評価するか?」 →
外注先の納期遵守率が不安定で、歩留まりにもばらつきがあるため、外注依存度増大はリスクが高いと考えられる。
3.3 パターンC:(行動)により(影響)が生じ、それによって(目的・結果)を図る
最も汎用的で、提案型設問で多用される型です。行動 → 影響 → 目的という流れを一文または複数文で示します。
例文構造
(行動)により(影響)が生じ、その結果(目的)を図る。
適用例(改善策型問)
「改善策を提案せよ」 →
段取り作業を標準化および平準化することにより、作業時間を短縮し、稼働率を向上させて納期遵守率を高める。
これらの型を設問目的と字数制限に応じて使い分けたり、組み合わせたりすることで、答案の安定性と精度を高められます。
4. 解答文章を書く手順:ステップ方式
ステップ1:設問文から使う型を判断
まず設問を見て、「列挙型(A型)か」「評価型(B型)か」「提案型(C型)か」を直感的に判断します。例えば、「強みを述べよ」「課題を列挙せよ」はA、「評価せよ」はB、「どのようにして改善するか」はCが軸になります。
ステップ2:字数制限を手がかりに具体性を設計
字数制限が100字、120字、80字などであれば、切り口数や記述の粒度を逆算します。与件文のキーワードを抽出し、文字数に収まるように適切に要約します。目安として、1キーワードあたり10~15字程度を想定すると切り口数を見積もりやすくなります。
ステップ3:型にキーワードを当てはめ、文章を構成
あらかじめ選んだ型に沿って、キーワードを配置して文章化します。ポイントは、因果関係を明確に、語順を整理し、無駄な語を削ることです。例えばC型であれば、「行動 → 影響 → 目的」の順序が自然につながるように配置します。
こうして答案の骨格を早くつくることができれば、その後の推敲・見直しに時間を割けます。
5. 解答を磨く4つのコツ
コツ1:くどい表現を排除
「ということ、ていく」外注ということを考えていく → 外注を考える
「すること」 宣伝することによって、集客する → 宣伝によって、集客する
「するようにします」 共有するようにします → 共有します
「においては」 飲食業界においては → 飲食業界では
「ことで」精度を上げることで → 精度を上げ
「を行って」標準化を行って → 標準化し
「〇〇化を図り」〇〇の短縮化を図り → 〇〇を短縮し
「関する」製品に関するデータ → 製品データ
精度の高い生産計画が策定できていないこと → 生産計画の精度が低いこと
コツ2:文末表現にバリエーションを持たせる
列挙:体言止め、こと、点
理由:から、ため
効果:図る、高める、抑える、解消する、低減する
効果(行動より):構築する、対応する、促進する、実現する、訴求する、見直す
このようなメモを作っておき、文末表現に迷った時にメモから取り出して使うと定着が早くなります。
コツ3:論理構造の矛盾・飛躍をチェック
原因と結果の間に飛躍がないか、説明が足りない中間要因(ワンクッション)がないかを検証します。単なる並列になっていないか注意。
コツ4:時間感覚を掌握する
普段から「100字=何分」という基準を測定し、試験中の答案作成時間を逆算できるよう訓練しておきます。これが答案品質を守るタイムガードになります。
6. 「文章の型」を体得するトレーニング法
ステップ1:型別設問を選んで反復演習
たとえば、工程改善を問う設問はC型、課題抽出を問う設問はA型など、自分が強化したい型に合った演習を選びます。
ステップ2:模範解答をキーワードレベルに分解
模範解答(答案集など)を「行動/影響/結果」「根拠/結論」「切り口要素」に分解し、型構造を抽出します。
ステップ3:キーワードを使って自力で再構成
ステップ2で得た構造をもとに、自分ならこう書く、という再構成答案を作成。丸暗記ではなく「構造思考力」を鍛える訓練です。
7. 本事例Ⅲ:与件文の概要と具体設問
以下は、本事例Ⅲ に即した与件概要と設問例をもとに、先の型・手順を活用するイメージを示すために再構成したものです。
与件文の概要
本事例Ⅲの舞台は、搬送機器を含む金属加工業を営む中小企業 C 社です。以下、与件文の主なポイントを整理します。
- 企業概要・事業領域
C 社は、工作機械メーカーや物流機器メーカー向けに、搬送機器(コンベヤ、昇降機構、ローラ等)を設計・製造・組立して納入する企業。構造体(フレーム)、搬送体、駆動部を内製し、外注部品を組み込みながら一貫生産体制を構築している。
社長は、かつて工作機械メーカー X 社に所属し、工場設備設計(搬送機器含む)によって生産性向上提案を行っていた経験を持つ。 - 生産体制と工程構成
製造部は、生産管理課、資材管理課、機械加工課、製缶課、組立課で構成されている。設計部が図面・部品構成表を作成し、生産管理課は大日程計画を立案、資材管理課が部材発注・在庫管理を行う。各課ではその日程に基づき加工・組立を行うが、進捗管理は週次の生産会議で調整される。工数見積もりは各課長の経験に基づいてなされている。 - 直面する課題・制約
受注量が増加傾向にあり、顧客からの納期短縮要請も強まっている。そのため、大日程計画と週次計画の乖離・再調整が常態化し、工程管理が混乱している。
製缶課では残業や休日出勤が頻発。前後工程では特別対応を除き残業は抑制されている。設計変更や納期変更が生じた際は、生産会議と設計部の折衝が行われる。
最終検査後は指定場所への納品、据付後のメンテナンスは通常顧客側だが、X 社案件のみ営業部が対応するなど、アフターサービスにも関与している。
このような与件を受け、設問は生産現場の改善、工程管理、見積もり制度、将来戦略などを問う構成となっていました。
具体設問例(設問1~設問4)
以下は、この事例Ⅲに即した代表的設問例と、それに対する解答方向性のヒントです(実際の配点・字数は設問による)。
| 設問 | 問題文概要 | 解答方向性(型適用イメージ) |
|---|---|---|
| 第1問 | C 社の強みを 80字以内 で述べよ | A 型で列挙。「設計提案力」「一貫生産体制」「アフターサービス対応」など |
| 第2問 | 受注増・納期短縮要請への対応として、工程改善をどう進めるべきか 100字以内 で助言せよ | C 型。「ネック工程分析から優先対応 → 標準化・応援体制で能力拡大」など |
| 第3問 | 工程管理混乱を防ぐための改善策を 100字以内 で助言せよ | C 型。「日程‐実績をデータ化 → 設計・営業部門と共有 → 計画精度向上」など |
| 第4問 | 見積もり制度の不備を踏まえ、価格交渉力強化のための整理と対策を述べよ | B 型/C 型混合。「過去実績データ活用の見積根拠化」や「部品構成表に単価を付与して見積精度を高める」など |
たとえば、第1問を A 型で回答するなら:
強みは、①顧客工場の生産性を高める提案設計力、②構造体・搬送・駆動部を一貫内製化できる体制、③X 社案件での据付・メンテ対応を含む信頼性ある体制である。
第2問を C 型で回答するなら:
製缶工程を中心にネック工程分析を行い改善優先順位を明確化し、それを起点に標準化・平準化を進め段取り替えを減らし生産能力向上を図る。
こうして、与件の語句と解答の型を対応させて答案骨子を作っていけば、答案作成の迷いを最小化できます。
8. 総括と今後の学習への指針
まとめると、二次試験突破の鍵は以下にある。
- 文章の型を持つこと:A/B/C型を使い分け、安定した答案を再現。
- 手順を構造化すること:設問把握→キーワード抽出→型当てはめ。
- 添削視点を持つこと:冗長削除・論理整合性・文末多様化・時間管理。
- 反復訓練をすること:模範答案を分解・再構成し、型を身体化する。
合格答案は「キーワード × 論理構成 × 時間対応力」の掛け算で決まります。金属加工業を題材とした事例でも、結局は「与件根拠を拾い、論理的に組み立て、制限時間で仕上げる」というプロセスに集約されます。
この型を自分のものとし、日々の演習で繰り返し使うことで、答案作成は「迷いの連続」から「再現性のある型作業」へと変化します。それこそが合格に至る最短ルートです。
加えて、1キーワードの文字数の目安は15文字、文章作成に必要な時間を把握しておき、気持ちに余裕を持ち、模範解答のキーワードを分解し、再び文章に直すトレーニングは短い時間でも取り組むことができます。


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