私は、中小企業診断士二次試験に運よく独学で一発合格しました。事例Ⅰ(組織・人事)、事例Ⅱ(マーケティング・流通)、事例Ⅲ(生産・技術)、事例Ⅳ(財務・会計)の4科目で企業診断の実務能力が問われます。近年(令和2年度~令和6年度)の過去問を分析すると、各事例の出題テーマはその時々の法改正や中小企業政策、経済社会の変化を色濃く反映しています。特に「働き方改革」などの法改正、新型コロナウイルスによる経営環境の激変、DX(デジタル化)推進やSDGs(持続可能な開発目標)への対応など、時代の潮流とリンクした問題が出題傾向として見られます。
本記事では、独学で過去問対策に取り組む方にも役立つよう、2020年(令和2年度)から2024年(令和6年度)までの事例Ⅰ~Ⅳ各科目のテーマと背景との関連性を年度別にまとめ、さらに過去からの継続的な特徴や変化(出題傾向)を解説します。【注:各年度の具体的な企業名は伏せています】実際の過去問分析を通じ、キーワードである「経営戦略」「人事」「マーケティング」「生産管理」「財務分析」「法改正」「SDGs」なども踏まえて解説します。
1.事例Ⅰ(組織・人事):過去5年のテーマと時代背景
事例Ⅰは企業の組織戦略や人事制度に関するケースが登場し、中小企業の事業承継や組織変革、人材活用策が頻出です。近年の事例Ⅰでは、高齢化や働き方の変化、デジタル化、そしてコロナ禍といった経営環境の変化に組織面でどう対応するかが問われています。各年度の事例Ⅰのテーマと、それを取り巻く社会的・経済的環境変化との関連を見ていきましょう。
事例Ⅰ 2025年度のトレンドとテーマ予測・与件文・問題・解答例はこちら!
1-1.2020年(令和2年度)事例Ⅰ:老舗企業の事業承継とM&A戦略
テーマ:
観光地の老舗酒造メーカーA社が後継者不在となり、地元の有力実業家(A社長の祖父)が企業グループの一員として友好的M&Aで事業承継したケース。老舗ブランドを守りつつ、インバウンド(訪日観光客)需要を取り込む地域活性化ビジョンが問われました。
背景の関連性:
この出題は中小企業の事業承継問題と地方創生を反映しています。日本では経営者高齢化に伴う後継者不在が深刻化し、政府も事業承継税制の拡充やM&A支援策を展開していました。また2019年まで訪日観光客が急増するインバウンドブームがあり、地方の伝統産業でも観光客向け商品開発が重視されました。A社長祖父のビジョン「老舗ブランドを活かし地域活性化を図る」は、このインバウンド需要予測と地方経済振興策と合致します。さらに2020年4月から中小企業にも適用された働き方改革関連法(時間外労働の上限規制など)もこの年であり、老舗企業の組織体制見直しや人事制度改善(非正規20名の活用等)にも影響する時期でした。
継続・変化ポイント:
昭和・平成期から続く後継者難への対応として、第三者承継(M&A)という解決策をテーマに据え、加えて地域×観光(インバウンド)という時事要素を絡めた点が特徴です。事例企業は経営ビジョン策定や組織再編が課題となり、以降の年度でも事業承継・M&Aは事例Ⅰの重要テーマとして継続して登場しています。
1-2.2021年(令和3年度)事例Ⅰ:印刷業のデジタル変革と組織再編
テーマ:
首都圏の家族経営印刷会社A社が、市場のデジタル化による需要変化に対応すべく、広告制作部門を設け事業領域を拡大したケース。先代・現経営者が地場で築いた事業基盤を守りつつ、紙媒体依存からの脱却と組織体制の強化が狙いでした。3代目(後継予定者)は広告代理店出身の経験を活かし、デザインやデジタル印刷コンテンツに対応できる経営への転換を進めています。
背景の関連性:
この事例はデジタル化と働き方改革の波を如実に反映しています。印刷業界では近年IT技術の進歩でデジタル印刷やオンデマンド印刷が普及し、従来の専門技術に頼らないビジネスモデルへの転換が求められました。A社はまさに情報通信技術の進化による印刷物需要の変化に直面し、事業ドメインを再定義しています。政府も中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を掲げ、中小企業庁によるIT導入補助金など支援策が展開された時期です。
また組織面では、この年中小企業にも施行された同一労働同一賃金(パート待遇改善)などの働き方改革が人事制度へ影響を与えました。A社のケースでは触れられていませんが、コロナ禍(2020~)でテレワーク導入や業務効率化が中小企業にも必要となり、在宅勤務体制の整備など人事管理上の課題も背景に存在します。A社は市場縮小に伴い新規顧客開拓に苦戦しており、デジタルマーケティング人材の登用や組織再編(専門部署新設)で打開を図る様子が事例に反映されました。これは同時期の中小企業の新事業展開支援策(事業再構築補助金など)とも軌を一にしています。
継続・変化ポイント:
事例Ⅰでは、このようにデジタル化対応や後継者による組織変革が頻出テーマになっています。2020年事例Ⅰが伝統産業×承継だったのに対し、2021年は印刷業×DXと、扱う業種は異なれど「環境変化に対応する組織戦略」「後継者育成」が共通軸です。以降の年度でも、デジタル技術やIT人材活用、組織の若返りなどが継続して問われる傾向にあります。
1-3.2022年(令和4年度)事例Ⅰ:農業法人の多角化と後継体制づくり
テーマ:
有機農業に取り組む農業法人A社(兄弟で出資、従業員40名)が、苺など高級果物栽培から野菜生産・加工品開発へと事業拡大してきたケース。有機JAS認証やJGAP(農業生産工程管理)取得による高品質野菜の提供や、地元菓子メーカーとの共同開発で地域特産洋菓子を生み出すなど、6次産業化的な戦略が取られています。一方で事業拡大により組織が複雑化し、明確な役割分担の欠如や繁閑差への人員対応、人材定着難など組織・人事課題が顕在化しました。現経営者(69歳)は5年程度で後継者(長女か弟)中心の組織体制への移行を検討しており、事業承継計画と組織再構築がテーマです。
背景の関連性:
この事例はSDGs時代の農業経営と地域連携を色濃く反映しています。A社は「人にやさしく、環境にやさしい農業」というコンセプトのもと有機農業を推進しており、SDGsの目標2「飢餓をゼロに」や目標15「陸の豊かさを守ろう」に通じる持続可能な農業経営を体現しています。政府もこの頃、農業分野でのSDGsやスマート農業(IoTやAI活用)に力を入れており、有機農産物の普及やGAP認証推進策を展開していました。A社が取得したJGAP等はまさにそうした政策の産物です。
また、A社は地元企業と組んで新商品を開発し地域ブランド化に成功しています。これは第6次産業化・地産地消の好例であり、2010年代以降農林水産省が推進した「農商工連携」「地域資源活用」のトレンドと合致します。さらにA社は2000年代に後継者難の有機野菜販売業者を事業承継して株式会社化するなど、中小企業のM&Aによる事業引継ぎ支援の時流にも乗っています。
人事面では、農業の慢性的な人手不足と働き方課題が背景にあります。農繁期・閑散期の差で労働時間が不規則になることや、新規就農者(未経験者)の定着が難しいことは、農業分野全体の課題でした。政府は新規就農者への給付金支援や労務管理の改善指導をしていましたが、働き方改革との兼ね合いで農業現場における労働時間管理が一段とクローズアップされた時期でもあります(2024年施行の働き方改革で農業分野も残業規制対象となることを見据えた流れ)。A社のようにパートや多様な人材を活用しつつ組織体質の近代化を図る必要性は、この社会的背景と一致します。
継続・変化ポイント:
事例Ⅰで地方の一次産業が扱われるのは珍しく、SDGsや地域活性化との関連で農業法人の多角化が登場した点に新鮮さがあります。しかし根底にあるのはやはり事業承継と組織人事改革です。2020年は伝統製造業、2022年は農業法人と業種は違えど、高齢経営者から次世代への引継ぎや組織体制再編というテーマは共通しています。時代のキーワードである「DX」こそ直接出てきませんでしたが、スマート農業や食品ロス削減などデジタル・環境トレンドとも関わる内容でした。事例Ⅰ全体として、後継者育成を見据えた組織体制づくりが一貫したテーマであることがうかがえます。
1-4.2023年(令和5年度)事例Ⅰ:老舗飲食店の経営統合とPMI
テーマ:
地方の老舗飲食店A社(家族経営で蕎麦専門店に業態特化)が、商業ビル内で営業する別の飲食店X社を経営統合したケースです。A社は現経営者の代で「総花的メニューから蕎麦に集中」「店舗改装でファミリー層にターゲット絞り込み」という差別化戦略を実施し、大手外食チェーンとの差別化による単価アップと従業員負担軽減を両立させ業績向上を図ってきました。そこに、駅ビル内でテナント展開していたX社(現状は価格競争に苦戦)が加わり、事業承継を兼ねたM&Aが行われます。統合後は、A社の強みである接客力やファミリー層向けメニューをX社にも展開する一方、X社の持つテイクアウト商品や仕入先ルートをA社が活用し若年層・観光客など新顧客層開拓を狙うというシナジー創出がテーマです。統合プロセスでは、X社従業員の不安軽減や既存取引先との関係維持に配慮し、ソフト面のPMI(組織文化統合、人心掌握)が問われました。
背景の関連性:
この事例はコロナ禍後の飲食業界再編を強く反映しています。2020~2021年の緊急事態宣言下で飲食店は大打撃を受け、多くの中小飲食店が廃業・身売りを余儀なくされました。政府や自治体は時短営業協力金などを支給したものの、業界全体で店舗統廃合やM&Aが進んだ時期でもあります。A社によるX社統合は、まさに生き残り策としての中小飲食店同士の提携・合併を映し出しています。加えて、事業再構築補助金などコロナ後の政策で、業態転換や多店舗化への支援が出たことも背景にあるでしょう。A社が蕎麦専門店への特化で収益改善したのは「コロナ禍で生き残るには差別化が必要」という教訓と合致します。事実、A社はコロナ直撃後にファミリー層という比較的来店が見込める顧客層に絞り込んで成功しており、コロナ禍の顧客ニーズ変化(少人数・家族単位での外食志向)に対応した戦略といえます。
また、組織人事面では中小企業におけるM&A後の統合作業という先進的テーマが出題されました。これは中小M&Aガイドライン(2020年策定)などで着目された分野です。中小企業庁も近年「第三者承継」の一環として買収後のPMI支援に言及しており、X社社員の不安ケアや既存取引先との関係維持策はそのままPMIの要諦です。さらにA社長が自社の長女をプロジェクトリーダーに据え統合作業を担わせている点は、後継者育成を目的とした人事施策です。これも2020年前後から政府が啓発する事業承継時の計画的な後継者教育(事業承継補助金の活用等)の重要性と軌を一にしています。
継続・変化ポイント:
事例Ⅰにおける組織再編と人材マネジメントのテーマがさらに発展し、M&A・PMIという高度な内容が取り上げられました。ただ根底には2020年以降一貫する事業承継と環境変化対応があります。2023年は飲食業が舞台でしたが、コロナという未曾有の環境変化にどう対応し組織を守るかが問われ、本質的には過去問と連続したテーマと言えます。働き方改革の観点では、この頃「同一労働同一賃金」対応も一巡し、代わりに人手不足への対応(従業員の負荷軽減策やモチベーション管理)が重視されました。A社の統合戦略でも「従業員負担を減らして接客力向上」という狙いが語られ、これは従業員定着・サービス品質維持につながる施策です。総じて、事例Ⅰでは人材をいかに活かし環境変化を乗り切るかという一貫したメッセージが見て取れます。
1-5.2024年(令和6年度)事例Ⅰ:地方物流企業の3PL化と後継者の挑戦
テーマ:
地元密着型の運送業A社が、次代の成長を見据え3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者への転身を図ったケースです。創業者(初代)は地域限定の営業方針で、従業員も地元志向が強い企業風土でした。しかし顧客ニーズ変化に対応し、A社は2000年頃に首都圏マーケット進出プロジェクトを立ち上げ、創業者の長女(後継予定者でもある)をリーダーに任命して新市場開拓に挑戦しました。既存組織から独立したプロジェクトチームとしたのは、地元志向の強い組織文化の影響を排除し、自由な発想で都市圏営業を行うためであり、同時に長女の後継者育成も意図されています。その後、大手企業Z社が県内進出する際にA社へ物流業務を委託する案件が持ち込まれました。A社は地元スーパーX社との取引実績や在庫管理ノウハウを評価され、Z社の新店舗への商品供給を請け負うことで県内展開に貢献できると判断されたのです。これはA社にとって3PL事業への本格参入機会となりました。創業者は2024年、3PL事業拡大に伴い自社の人員配置転換を助言し、従来の運送部門人材を新設の物流企画部門へ配置するなど組織変更を行っています。その狙いは、新事業に必要な生産性向上施策と人材の適材適所配置によって3PL事業者にふさわしい体制を築くことにありました。
背景の関連性:
この事例は地方中小企業の物流改革という近年のトピックを扱っています。まず、大きな背景に「2024年問題」があります。2024年4月からドライバーの時間外労働規制が適用され、物流業界では深刻な人手不足・輸送力不足が懸念されました。地方の運送業者が生産性向上や付加価値サービス提供(3PL化)に活路を見出す動きは、まさにこの法改正対応とリンクします。A社が一貫物流サービスや流通加工・在庫管理まで担う3PLへの転身を図るのは、単なる運送業では厳しくなる経営環境を乗り越える策と言えます。政府も物流DX推進や荷主・物流業者間の適正取引(価格交渉)を推進しており、A社が大手Z社と対等なパートナーシップで契約できたのも、こうした物流適正化政策**の追い風があった可能性があります。
また、地方創生の文脈では地域のハブ企業の台頭が奨励されています。A社の県内ネットワークや地域密着ノウハウがZ社に評価されたのは、単に物流能力だけでなく地域密着戦略の強みです。政府の地方創生施策でも、都会の大企業と地方中小企業の連携が掲げられており、このケースはその体現と捉えられます。さらに事業承継の観点では、長女へのバトンタッチを念頭に新規事業を任せる手法が描かれました。これは、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」が示す後継者への権限委譲や新分野開拓による第二創業のモデルケースでもあります。長女が物流企画という未経験事業に挑戦し成果を出した点は、女性後継者の活躍促進(近年「女性版事業承継」の推進もトピック)とも合致します。
継続・変化ポイント:
事例Ⅰの5年分を通じ、後継者が中心となって組織変革や新事業開拓を進める物語が一貫しています。2024年は物流業という舞台で、それまで蓄積してきた承継・組織改革テーマの集大成のような内容でした。DXこそ直接の言及はないものの、物流の効率化にはIT活用が前提となるためデジタル化も内包しています。事例Ⅰ全体の傾向として、人材(後継者や従業員)の活用戦略と外部環境変化(法改正・市場変化)への適応が常に問われています。法改正では特に働き方改革関連や下請取引改善など、中小企業を取り巻く制度変更が背景知識として重要です。キーワードで見ると、「事業承継」「経営戦略」「人事制度改革」「組織風土改革」などが毎年のように登場しつつ、その年ごとのトレンド(インバウンド、DX、SDGs、コロナ、物流2024問題等)を絡めて出題される傾向が確認できました。
1-6:事例Ⅰ 出題傾向のまとめ
2.事例Ⅱ(マーケティング・流通):過去5年のテーマと時代背景
事例Ⅱは市場・顧客・競合分析に基づくマーケティング戦略や販路開拓策が問われます。直近5年間では、中小企業のデジタルマーケティング対応やコロナ禍での販売チャネル変革、地方の伝統産業のブランディングなどがテーマとして出題されてきました。各年度の事例Ⅱテーマと、それを取り巻く社会的・経済的環境変化との関連を見ていきましょう。
事例Ⅱ 2025年度のトレンドとテーマ予測・与件文・問題・解答例はこちら!
2-1.2020年(令和2年度)事例Ⅱ:離島のハーブ農園のブランド戦略
テーマ:
「島のハーブ資源を活用した製品開発と観光連携」がテーマでした。B社は本州から海を隔てたX島に所在する農業生産法人で、10年前に島固有の「ハーブY」を無農薬栽培し加工する事業を開始しました。創業社長は高齢化・耕作放棄地に悩む島の活性化を目指し、ハーブを乾麺や焼き菓子に練り込むなどの製品化に挑戦。しかし販路が限られたため、オンライン直販や観光客向けツアー企画でファンを増やそうと試みました。設問には、自社オンラインサイトでのハーブティー販売とそれに連動したX島宿泊ツアーを企画し、参加者をB社・X島のファンにしたいという構想が提示されていました。これらから、B社の業種は「地場資源を活かす農産加工業兼観光事業」で、主な経営課題は販売チャネルの多様化と地域ブランド化、戦略はオンライン販売・体験型ツーリズムによる集客とブランディングと整理できます。
背景の関連性:
2020年当時、地方創生政策や農山村振興の流れが強まり、農産物や伝統資源を活かした観光や6次産業化が注目されていました。例えば、兵庫県姫路市の「ハーブの里山プロジェクト」では地域のハーブ産業を観光資源とする取り組みが進められ、農水省も「6次産業化アワード」で地産地消・農商工連携の優良事例を表彰しています。また、国土交通省のエコツーリズム推進や、地方版ふるさと納税の整備など地域活性化策が後押ししていました。社会的には、少子高齢化と都市一極集中が進む中、地方では農地の放棄や人口流出が深刻化し、国や自治体は過疎地振興・農業技術支援(農業試験場での栽培技術支援など)で農家を支援していました。さらに2020年はコロナ禍の影響が始まった年ですが、試験問題では「COVID-19の影響は考慮不要」とされており、むしろICT活用・オンライン販売の重要性が高まった時期といえます。観光庁も同年、「新しい生活様式」に沿った地方観光振興や農泊(農村民泊)の推進を提唱しており、B社のオンライン直販とX島ツアー企画はこうした流れと整合的でした。
継続・変化ポイント:
事例IIにおける地域資源活用型ビジネスは近年の継続テーマで、2018年以降も地場産品のブランド化や観光連携が頻出しています。2020年のB社も島固有のハーブという地方資源を活かし、顧客価値と地域貢献を両立させるストーリーが重視されました。一方で変化点としては、オンライン直販(ECサイト)やユーザー参加型ツアーなど顧客接点のデジタル化・体験サービス化が鮮明になったことです。過去の事例IIでは例えば2016年(平成28年)に県産品のネット通販活用、2019年(令和元年)に健康食品×観光の事例がありましたが、2020年は「オンライン販売×感覚・概念価値を伴う観光ツアー」が問われ、コロナ前の観光熱から「非接触/体験型観光の創造」へと文脈が変化しています。この傾向は現在のSDGs・新市場開拓志向とも合致し、地域ブランド化×ファン育成の視点が強調されたと言えます。
2-2:2021年(令和3年度)事例Ⅱ:地場豆腐屋の市場拡大戦略
テーマ:
2021年の事例IIでは「地域特産の豆腐製造業のEC販売強化」がテーマでした。B社は地元X市で伝統的な製法で豆腐・惣菜を製造する企業で、飲食店向け卸売と市内販売を展開しています。設問文では、社長がオンライン化の潮流を受けて、地元産大豆の魅力をネット販売で全国に発信したいというビジョンが示されていました。実際B社は、X市の主要顧客であるY社(中食業者)サイトへの出店(協業)や、自社サイトでの定期セット販売などを検討しており、特に「手作り豆腐セットと地元水・新米を組み合わせて販促する」というアイデアが挙げられていました。また動画配信など、新市場へのアプローチが問題に盛り込まれ、会社はローカル食品企業として「多世代顧客とオンライン販路の開拓」が大きな課題でした。業種は「食品加工(豆腐・惣菜製造)」、課題は少子化・固定客減少による需要減と大手量販店との価格競争、戦略は「DX化(EC強化)とターゲティングによる付加価値向上」です。
背景の関連性:
2021年は引き続きコロナ禍の影響下でデジタルシフト支援策が急速に拡充された年でした。政府は中小企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を促進するため「IT導入補助金」や「ものづくり補助金(デジタル枠)」を強化し、小売・製造業のEC導入を支援しています。また、農林水産省は「スマート農業や6次産業化」推進にも力を入れ、地場産品のブランド化・販路開拓に公的補助を用意しています。社会環境としては低・無味長寿商品(健康食品)需要の高まりとフードロス削減志向、さらにはコロナ禍による巣ごもり需要で宅配・定期購入モデルが広く受容されるようになりました。一方で、雇用は不安定化し、労働力不足対策(生産自動化や外部人材活用)が喫緊の課題となっていました。B社事例では、動画配信やSNS活用などITを活用した消費者コミュニケーション、そして学校・地域連携による市場創造が求められ、これらは「地方創生・地域未来投資ファンド」で掲げるソーシャル・アントレプレナー支援と符合します。
継続・変化ポイント:
豆腐・惣菜メーカーの事例登場は以前からありましたが、2021年ではEC活用と生産性向上に一段と重きが置かれました。過去事例では小ロット多品種対応の強みが問われることが多かったのに対し、2021年は「オンライン販売を組み合わせて地域限定商品を全国展開する手法」が特徴的です。また、価格競争の問題解決には「付加価値化(高付加価値商品の開発)」というアプローチが目立ちました。2020年以前は実店舗販路多様化策が中心でしたが、2021年からはサブスクリプション型販売やSNS集客などデジタルマーケティング強化が顕著になっており、支援施策でも「伴走型DX支援」が拡充しています。特に女子野球向けプロモーションやイベント開催など、従来の「静的販促」に加え「体験型・コミュニティ連携型プロモーション」が組み込まれた点は新傾向です。
2-3:2022年(令和4年度)事例Ⅱ:食肉加工業の販路拡大とブランド戦略
テーマ:
2022年の事例IIは「地場食肉加工業者の販路拡大とブランド戦略」がテーマでした。B社は肉加工品(ソーセージ・ベーコン等)を作る食肉加工会社で、県内外のホテル・飲食店(卸売)と近隣住民向け小売店を持っています。設問では、「農業者・漁業者と協力し地産地消商品を開発し、観光客向け土産や都市部商業施設で販売せよ」という題意が示されていました。B社の強みは「高い加工技術と直営店の成功」であり、弱みは「卸売依存で市場変動に弱い」ことでした。今回の戦略案は、地元農漁業者との連携による加工食品(例えば地元食材使用ソーセージや惣菜)の共同開発と、これらを道の駅や商業施設で販売するというものでした。
背景との関連性:
食肉業界では輸入牛肉の自由化(TPPなど)、健康志向の高まりによる食肉消費の変化、外食産業の規制緩和が進んできました。2022年は脱炭素・SDGsが消費者に浸透し、地産地消・6次産業化が強力に推進された年です。農水省は農林漁業者の高付加価値化を目的とした「6次産業化・地産地消法」に基づく計画認定・補助事業を多数展開しており、6次産業化アワードで優良事例を表彰しています。B社の事例でも、農家・漁師と協業する農商工連携はまさにこの流れと一致します。加えて、2022年からは観光業の回復も注目され、農林水産物を土産品化し「農泊」や「ツーリズム」を組み合わせる動きが国交省・文科省でも支援されていました。社会面ではコロナ禍でのインバウンド需要減少を背景に国内観光振興策(旅行クーポンや地域振興券)が打ち出され、地域産品のプロモーションは地域復興の柱と位置付けられました。一方で食の安全性・高品質志向も高まり、食品産業へのHACCP義務化(2021年導入)など衛生管理が厳格化された点もB社にとって考慮点です。
継続・変化ポイント:
食肉加工・地産地消は過去にも時折登場しましたが、2022年は協業による商品化(共同プラン開発)がより明確になりました。これまでは事業者単独での新商品提案が多かったのに対し、本例は「地域資源×農林漁連携」で付加価値を創出する点が変化です。また、販路拡大策として都市部大規模商業施設への出荷や道の駅販売が強調され、従来の「卸売中心→直販拡大」から「直販チャネル多角化」へのシフトが顕著です。法令面では2022年からの改正会社法(民法改正を受けた契約実務の変更)や食品表示の厳格化などもあり、ブランド化には透明性とストーリー性が求められました。こうした点で過去問と比べて「持続可能性とストーリー訴求」が強く絡んだ出題だったと言えます。
2-4:2023年(令和5年度)事例Ⅱ:地域スポーツ専門店の新規販売戦略
テーマ:
2023年の事例IIでは「地域スポーツ専門店の新規販売戦略」がテーマでした。B社は長年地域密着で野球用品を製造販売するスポーツ用品店で、野球チーム向けのユニフォーム加工等に強みがあります。経営課題は大型量販店の競合激化と少子化による野球人口減です。設問では特に「新たなプライシング(価格体系)を考慮した販売方法」と「女子選手獲得のプロモーション」「オンラインコミュニケーション活用」の3点が問われました。結果、B社の方策としては低学年向けにサブスク型販売を検討したり、女子野球用に軽量オリジナルグラブを開発するなど新市場(女性層)開拓策を盛り込んでいました。業種はスポーツ用品小売(特に野球用品製造・加工)、課題は競争激化と市場縮小、戦略はサブスク導入・ターゲット拡大・DXプロモーションです。
背景との関連性:
2023年は少子化対策や女性活躍推進の社会的関心が高まる年でした。スポーツ庁は女性のスポーツ振興計画を策定し、女子スポーツ参加増加の支援を行っており、B社の女子野球層開拓はこうした国策と合致します。また、消費者のサブスク利用増加を受け、経済産業省も「サブスクリプション市場ガイドライン」整備など流通革新を後押ししています。さらに小売業では大型店舗立地法による地域商店保護、キャッシュレス決済導入推進策、5G・SNSを活用した集客支援が進み、B社もこうしたデジタル施策(SNS・Webサイト運営補助)の追い風を受けました。政府は地方商業振興として「商店街活性化支援事業」も行っており、地元店舗の共同プロモーションに補助を出すなどの施策もありました。
継続・変化ポイント:
スポーツ用品店がテーマとなるのは珍しいですが、老舗小売店の多角化は事例IIの一貫した要素です。2019年にも専門店がサブスク導入する問題があり、今回も「サブスク販売」が議論された点で継続性があります。ただし、2023年は特に「SNS・オンラインツールでのコミュニケーション」が具体的に問われた点が新鮮でした。過去はチラシや店頭販促が多かったのに対し、最新事例ではWebサイト・SNSを使ったコミュニティ形成(地域野球情報発信、アプリ開発など)を活用する戦略が特色です。また、少子化に伴う顧客層の縮小に対し、女性・高齢者など新規セグメントの取り込み(女子野球チーム増員策、置き配導入など)に踏み込んだ点も変化です。価格交渉(地域価格維持)ではデジタル化に伴うコスト管理の重要性が示唆され、価格競争時代から付加価値重視への転換がうかがえます。
2-5:2024年(令和6年度)事例Ⅱ:陶磁器卸売業のブランディング強化
テーマ:
2024年の事例IIは「伝統的陶磁器卸売業のブランディング強化」がテーマでした。B社は波佐見焼(長崎県)の陶磁器卸売業者で、創業数十年の老舗です。三代目社長はデザインセンスに優れ、若年層向け動画発信を得意としますが、市場は高齢化と中国製安価品の増加で縮小傾向です。設問では「ふるさと納税返礼品としての活用を含むX焼のブランド化」が示され、特に感覚価値・観念価値の訴求や、愛好家向けのレンタル事業提案が問われました(例えば、陶器のレンタルや下取りなど)。B社の概要としては「陶磁器卸売・小売(直営ショップ・通販含む)」で、課題は販路拡大とブランド価値向上、戦略は「地理的表示(GI)制度活用やインバウンド誘客を見据えた地域ブランド化」でした。
背景との関連性:
伝統工芸品振興や地方創生政策が背景です。2024年10月からふるさと納税返礼品ルールの改正(返礼割合の縮小、ポイント制導入)やGI(地理的表示保護)の拡充が予定されており、地域ブランドの差別化が強調されています。文化庁は陶磁器の産地活性化に助成金を出す一方、経産省は伝統技術の事業承継支援制度を実施しており、地場産業保護の施策が多く打ち出されています。経済環境ではインバウンド回復による工芸品需要の再燃と、SDGs視点での廃プラ削減などが陶磁器業界にも波及。実際、事例でも「X焼の陶磁器祭り」や若手クリエイターとのコラボレーションが機会として取り上げられていました。消費者嗜好としては、体験重視・所有欲の転換(レンタル経済)も顕在化しており、B社のレンタル・下取り提案はこれに沿ったものと言えます。
継続・変化ポイント:
陶磁器・工芸品の事例自体は珍しいですが、ブランド再構築と観光連携は近年の継続テーマです。過去の事例で漆器や和菓子など地域伝統品が問われた際にも、観光を活用した販路拡大が共通要素でした。2024年はとくに「GISや認定制度を用いた地域ブランド化戦略」と「コンテンツ販売(動画)による感性価値訴求」が目立ちました。返礼品問題は近年の繰り返し(2020年、2022年にもふるさと納税関連あり)ですが、今回は「感覚価値・観念価値」でストーリー性を深める視点が新鮮でした。また、COVID以降、体験価値の創出が重視される中で、陶器愛好家向けレンタルというサブスク型事業提案が新たな切り口となっています。総じて「伝統と革新の両立」が出題意図の核心であり、過去の「地場産品販促」路線を継承しつつ、デジタル時代のマーケ手法が反映されたと言えるでしょう。
2-6:過去5年の出題傾向(事例Ⅱ:マーケティング・流通)
- 販路拡大と多角化: 5年間通じて、卸売・小売から外販・直販、ECや店舗外販など多様な販売チャネル戦略が問われた。特にPB・OEMの活用、直販・通販サイト開設、移動販売など新規チャネル開拓が頻出。
- 製品戦略と差別化: 既存市場の成熟・競争激化に対応し、ブランド開発や高付加価値商品の企画、コラボレーションによる差別化がテーマ化。健康志向化や品質保証(食品安全・品質認証)も連動して取り上げられた。
- 市場環境の変化: 少子高齢化、都市部郊外化、インバウンド増加、消費税改定など社会動向が事例に反映され、ターゲット顧客の変化や購買習慣変化に対応した提案が求められている。
- デジタルトランスフォーメーション: EC化、キャッシュレス導入、ITを活用した在庫・顧客管理(CRM)の話題が増え、DX推進に伴う業務プロセス見直しが重視されている。
3.事例Ⅲ(生産・技術):過去5年のテーマと時代背景
事例Ⅲは生産管理や工程改善、品質管理、外注管理など、製造業の現場における問題発見と改善提案が問われます。過去5年間では、IoTやデジタル技術導入、少量多品種対応、サプライチェーン見直しといった、変化する製造業の現実に即したテーマが中心となって出題されています。技術や設備の制約がある中小製造業が、経営資源を活かしてどう生産性向上や競争力確保を図るかが、事例Ⅲの核心です。
各年度の事例Ⅲテーマと、それを取り巻く社会的・経済的環境変化との関連を見ていきましょう。
事例Ⅲ 2025年度のトレンド・テーマ予測と与件文・問題・解答例はこちら!
3-1:2020年(令和2年度)事例Ⅲ:金属加工業者の生産能力強化
テーマ:
2020年の事例Ⅲは、「金属加工業者の生産能力強化」がテーマでした。C社は1955年創業の金属加工業で、建築装飾金物やモニュメントなど、ステンレス製品を個別受注で製作しております。主に都市型建築や公共施設のサイン・装飾需要を背景に、デザイン性が高く付加価値の大きい製品を提供してまいりました。3代目社長は溶接・研磨の高い技能を活かし、高品質な製品づくりを推進してきましたが、コロナ禍後の受注増加により溶接工程がボトルネックとなり、納期管理が課題となっております。そのため、C社では溶接自動化設備の導入や治具改良による段取時間の短縮を進めるとともに、CAD/CAMを活用した設計データ管理で工程の効率化を図っております。また、多能工化によって技能者の柔軟な配置転換を可能とし、繁忙期でも安定した生産が行える体制構築を進めております。さらに、外注先との連携を強化し、変動の大きいモニュメント需要にも対応できる仕組みを整備しております。今後はロボット溶接の活用と技能標準化を両立させ、属人的技術と自動化の融合によって持続的な競争力を確立していくことが期待されます。
背景との関連性:
2020年は「働き方改革関連法」が本格適用され、長時間労働是正と同時に省人化投資が進められました。経済産業省は中小製造業向けに「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」を開始し、生産設備のデジタル化・自動化を奨励。また、国全体で製造業の底上げを図る「攻めのIT投資」や「グリーン成長戦略」により、IoT・ロボット導入が推進されました。社会面では巣ごもり需要で物流設備の需要が高まり、受注増加に直面。加えて、原料高騰が始まりつつあり、原価管理の重要性も顕在化していました。C社のような機械受託業は従来「日本的工場の現場知恵」に頼っていましたが、この頃からDX・スマートファクトリー化が求められ、品質管理・納期管理のIT化がトレンドになっていました。
継続・変化ポイント:
生産管理・改善は事例Ⅲの定番で、製造業の現場改善が何度もテーマになっています(例:リードタイム短縮、多能工育成など)。2020年もその延長線上で「ボトルネック解消」が問われました。変化点としては、労働不足対策として無人化・IT活用がより強く示されたことです。過去問では工程改善策が中心でしたが、2020年ではIT・ロボット導入の視点が盛り込まれ(例:IT化提案の出題)、中小企業のDX推進策が反映されています。また、BCP・在庫管理の重要性も増しており、生産管理情報の一元化やERP導入の助言も例年より重視された傾向です。
3-2:2021年(令和3年度)事例Ⅲ:革製バック製造業の生産性向上
テーマ:
C社は革製バッグの製造・販売を行う中小企業であり、X社の下請けとして創業後、一貫受託生産体制を築いて成長してきました。しかし、X社の海外移転により受注が減少したため、他社取引の拡大と自社ブランド展開で売上を確保しています。自社ブランドは高品質な天然皮革の手作り製品で高付加価値を実現していますが、デザイン・製造両部門の体制が未整備で企画力・対応力が不足しています。生産面では多品種小ロット化に伴い計画変更や在庫の不安定が生じ、特に縫製工程では熟練職人依存による生産性低下が課題です。熟練者の高齢化で技術継承も遅れており、若手育成が十分に進んでいません。改善策として、生産計画の週次化による変動対応力向上、作業標準書・動画化による技能の形式知化、多能工育成による柔軟な人員配置を推進します。さらに、資材調達体制の複線化で欠品リスクを減らすとともに、デザイン部門では顧客データやSNS情報を活用した製品企画力の向上を図ります。最後に、ECと直営店を連携させたCRM戦略により、高付加価値製品の安定供給とブランド強化を実現します。
背景との関連性:
ファッション産業では生産拠点の海外依存から国内回帰・多拠点化へのトレンドが生じつつあり、新規事業(自社ブランド)の必要性が増しています。DXの面ではオンライン販売・デジタルマーケティングが不可欠となり、中小企業向けのIT導入補助金なども充実しています。コロナ禍で旅行・外出自粛が続いた影響でインバウンドや百貨店売上が減る一方、高品質ニッチ製品への需要は相対的に増加。
継続・変化ポイント:
事例Ⅲは例年「生産性向上」が主要テーマでしたが、2021年は特にデジタル化・IT活用が強調され、従来の生産管理のみならず新たな経営資源の活用が課題に加わった点が変化として挙げられます。過去からの継続点は、生産技術の効率化や管理強化の重要性であり、変化点はコロナ禍を背景に一層のデジタル化推進が試験の主要ポイントとなったことです。これは試験問題の与件文や設問に表れ、単なる理論知識よりも実務的で今後の経営動向を見据えた対応力が求められたことを示しています。
3-3:2022年(令和4年度)事例Ⅲ:加工メーカーの新規取引の戦略的展開
テーマ:
自動車・医療機器向けプラスチック成形・組立メーカーC社がテーマです。受注増・短納期要求に対応するため、完成品検査工程が生産ボトルネックとなっていました。設問では検査工程の改善策が課題で、不良品削減や検査省力化が求められました。回答例では検査基準見直しや検査治具導入による効率化、また成形機多能工化による柔軟対応といった案が挙げられています。環境対応では新素材(再生プラ)の導入やコスト管理も示唆されています。また、生産体制見直し(多工程管理の強化、機械稼働率改善)や海外調達見直しを進めており、人件費削減と機械保全によるコスト低減に注力しています。
背景との関連性:
2022年4月施行のプラスチック資源循環促進法(プラ新法)は、プラスチック使用の削減とリサイクルの義務化を柱に、製造業者から消費者まで幅広く資源循環を促進する法律です。加工業界では再生素材導入が求められ、企業はプラスチック製品の環境配慮設計やリサイクル体制の構築が義務付けられました。C社でも法規制対応に伴うコスト増が課題となりつつ、部品不足や物流停滞の影響で外注活用や部品共通化が必要とされました。政府は「ものづくり補助金」等で設備更新や検査自動化支援を実施し、中小企業の環境対応投資を後押ししています。これに加え、2022年はコロナ禍後のサプライチェーン変動や顧客ニーズの多様化が中小製造業の生産管理に変革を迫り、短納期対応やデジタルツール導入による業務効率化、社内コミュニケーション活性化で事業継続力強化の動きが加速しました。新規取引拡大による収益基盤強化も経営戦略上重要視され、こうした法令・社会変化が事例Ⅲの出題背景に反映されています。結果として、生産管理の現場での環境対応と経営戦略の統合的対応力が求められる試験問題となっています。
継続・変化ポイント:
前後工程連携や自働化提案は従来からの継続テーマですが、2022年は環境規制への対応が鮮明になりました。プラスチック法対応は問題文には直接示されていないものの、検査見直しの背景に「廃材削減」が織り込まれるなど、新たな環境視点が加わっています。また、人手不足対策として多能工化は恒例ですが、今回「外部委託活用」や「教育体系整備」といった組織横断策提案が出ており、管理体制の見直しまで踏み込んだ内容になっています。さらに原価企画的な視点も強調され、コストダウン提案が求められるなど、従来よりもコスト管理の高度化が要請されました。
3-4:2023年(令和5年度)事例Ⅲ:食料メーカーの標準化・高付加価値化
テーマ:
高付加価値総菜の製造を行う食品メーカーC社は、資本金3000万円、従業員60名(そのうちパート40名)で、温泉リゾート地に立地し、高級ホテル・旅館向けに和洋食惣菜やスイーツ、パンを受託製造している。工場長はホテルでの調理経験を持ち、多様な顧客ニーズに対応した商品開発が強みである。2020年のコロナ禍で受注が激減したが、2022年以降は観光需要の回復に伴い受注も増加。一方で人員確保は難しく、品質管理の強化(HACCP対応)と衛生的な設備ライン整理が急務となっている。課題は、専用設備を活用した差別化総菜の新規事業化と、受注増加に対応する生産管理の改善であり、これには外部専門家の活用による新製品開発推進や、週次計画とレシピのデータベース化による生産効率化が求められている。今後は製造工程の標準化・自動化と新メニュー開発による高付加価値化がカギとなり、これらの対応が経営の持続的発展につながる重要施策である。
背景との関連性:
食品分野では2021年完全施行のHACCP義務化が追い風となり、C社の高衛生管理体制は優位性を生みます。2023年には「食品ロス削減推進法」が施行され、業界では原価低減と廃棄削減が強く求められました。C社も注文デッドラインの短縮化や在庫管理強化による廃棄減少策を検討しました。また政府は「IT補助金2023(食品業向け)」などで中小食品製造業のデジタル化を支援し、計画的生産管理・レシピ管理システムへの補助が利用可能です。これら支援策を背景に、IoT/ITによる生産計画の高度化提案が提案に盛り込まれています。
継続・変化ポイント:
総菜・加工食品事例は以前からありますが、2023年は品質管理と商品開発の融合が明確でした。以前は生産現場の改善が中心でしたが、今回は外部開発者起用による新製品企画(R&D体制整備)が大きく扱われ、企画開発機能の設置が問われました。一方、生産管理では従来通り「頻度短縮・標準化」が繰り返し求められましたが、今回はさらに「受注計画の社内一元化」「納期回答の自動化」といったICT活用策が強調されました。単なる工程改善を超え、デジタルツールによる次世代型生産管理への変革が示唆されています。また製品ライフサイクルの長期化や顧客共同開発を視野に入れ、過去以上にマーケティング視点の強い戦略的生産管理が問われました。
3-5:2024年(令和6年度)事例Ⅲ:搬送機器メーカーの受注拡大施策
テーマ:
C社は資本金5,000万円、従業員70名の搬送機器製造業で、設計から製造・組立まで自社で行っている。主にプラントや物流施設向けのコンベヤ機械装置の設計・製造を受託し、X社をはじめ5社の工作機械メーカー、3社の物流機器メーカーと取引。近年、グローバル調達コスト上昇やサプライチェーン逼迫により国内生産ニーズが増加し、X社からの受注も拡大している。製造部は生産管理課、資材課、機械加工課、製缶課、組立課からなり、週次で進捗管理を行いながらトップダウンで生産計画を進めている。製缶課の負荷が大きく、残業や休日出勤が常態化している。
製缶工程が生産能力のボトルネックとなっており、設備の老朽化や社員技能のばらつき、情報共有不足で生産性が低下している。前後工程からの応援体制も未整備で、残業・休日出勤が多発。対策として、作業標準化やマニュアル作成、多能工育成推進、ITツールの活用による業務効率化、工程の平準化と人員再配置による負荷軽減が求められている。また、生産管理と資材管理の連携強化、外注化の検討も必要だ。これらにより、製缶工程の生産能力向上と納期遅延防止を目指すことが急務である。
背景との関連性:
物流・製造業では「働き方改革」に伴うシフト制導入や、トラック輸送のドライバー不足(2024年問題)が深刻化しています。そのため、AGV(自動搬送車)やスマートコンベヤへの置換ニーズが高まっています。また、工場自動化(FA)・IoT化が産業政策として後押しされ、革新的ものづくり補助金による設備導入支援も活発化。C社もこれら補助金や協業提携を通じて成長を図っており、これが事例テーマに影響しています。
継続・変化ポイント:
事例Ⅲの「生産性向上」「工程管理強化」「多能工育成」は従来からの基本テーマとして継続された一方で、2024年は特に「段取り工程最適化」「前後工程応援体制」「IT導入による工程の標準化・見える化」が強調されている。過去に比べ工程改善における順序や組織的支援の重要性が問われ、単なる生産技術の問題から経営改善の体系的視点への進化が見られ、時代の流れに即した包括的改革の方向性が鮮明となった。
過去5年の出題傾向(事例Ⅲ:生産・技術)
- 技術革新と自動化: 産業用ロボット、IoT、AI、3Dプリンターなどの新技術導入が頻出。自動化による省人化・省力化がテーマになり、具体的にはスマートファクトリー化や加工工程の高度化が問われる。
- サプライチェーン変動: 国際情勢(原材料高騰、サプライチェーン混乱)やコロナの影響を受け、国内生産回帰や事業継続計画(BCP)が重視されている。
- 品質管理・人材: ISO認証やHACCPなどの品質・衛生管理体制、熟練技能継承や教育訓練の必要性も継続して扱われている。
- 環境・ESG対応: CO2削減、省エネ設備導入、廃棄物削減などサステナビリティ関連項目が増加傾向。SDGs視点での生産改善やリサイクル(ものづくり補助金活用など)が問われている。
4.事例IV(財務・会計)の過去5年の分析と対策
4-1.頻出論点と難易度の推移
- 経営分析(比率計算):毎年必ず第1問で登場します。自己資本比率、売上高総利益率、在庫回転率など基本的な指標を素早く計算し、解答に活かせるよう訓練しましょう。第1問後半の記述では、与えられた財務諸表から「強み・弱み」を取り上げ、前年比や業界比較を踏まえて述べる必要があります。ここは手堅く得点したいパートです。
- CVP分析(損益分岐点/セールスミックス):近年特に頻出&難化傾向にある領域です。従来型の損益分岐点(単一条件)問題だけでなく、セールスミックスや高低点法、販売価格の組み合わせ問題など、応用力が求められます。公式を暗記するだけでなく、変動費率と固定費を正しく理解し、与件に即して解く訓練が必要です。
- 意思決定会計(NPV・回収期間):第2・3問で必ず出題されます。NPV計算の問題文は長文で条件が多岐にわたり、受験生にとって時間のかかる“ラスボス”的存在です。ただしパターン化しやすい部分も多いので、事前学習で一連の手順を身につけておきましょう。難問に見えても「速度と正確性」を高めれば得点源にできます。
- 業績評価・投資評価:ROI、ROE、DCF(NPV以外)なども散発的に出題されます。2020年はROI、第1四半期決算時点での利益分析やM&Aの会計処理といった論点が登場しました。2024年は事業部間取引価格や業績評価の留意点といった設問でした。難易度はやや高めですが、出題自体はそこまで多いわけではありません。
- 難易度推移:2020年は解答例が準備されていても「NPV計算」が難問で、時間内完答が極めて難しい状況でした。これに対し2021~2024年は出題分野は似通っているものの、やや標準的な問題が多くなり、基本を抑えれば実力が反映されやすい内容になっています。ただし問題量が多い年もあり、時間配分が合否を左右します。全体として、コツコツと過去問演習を積めば安定した得点が狙える科目といえます。
4-2.計算問題の対策
計算問題はミスとの戦いです。「電卓を制するものは事例Ⅳを制す」と言われるほど、スピードと正確性が合否のカギになります。以下のポイントを参考に、日頃の演習で意識しましょう。
- 解き方の順序
第1問の経営分析は最初に解いて確実に得点しましょう。第二問以降は、問題をざっと読んで難易度を判断し、解けそうな計算から着手します。一般にCVPや簡単なCF計算から取り組み、NPVや複雑な組合せ問題は後に回すのが無難です。 - 頻出形式・公式
- CVP分析:変動費率=(変動費/売上高)、損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)など基本公式を暗記し、問われる条件に合わせて使い分けましょう。セールスミックス問題では、貢献利益率の加重平均で損益分岐点を求める練習を。
- NPV計算:各年度のキャッシュフローを割引率(WACC)で現在価値化し、合計から初期投資を引きます。途中結果はメモリー機能で保存しておくと後での照合が楽です。
- 投資回収期間:累積キャッシュフローを計算し、投資回収までの年数を求めます。最後に投資判断(NPV>0か、回収期間を超えるか)を忘れずに。
- ひっかけポイント
- 設問で聞かれている指標を見落とさない(たとえば「損益分岐点売上高」ではなく「比率」だった、など)。
- 計算途中の単位(万円・百万円)を合わせる。桁数ミスで「0を一つ付け忘れた…」というミスが非常に多いので要注意。
- 時間的に余裕がなければ、計算過程だけ書く:過程の記入を求められている問題はもちろん、そうでない計算問題でも、部分計算でも答案に書き残しましょう。完全解答できなくとも、思考プロセスを書くだけで部分点がもらえる可能性があります。
- ケアレスミス防止
計算ミス防止には「電卓メモリーの多用」が有効です。例えば大型の売上高や利益額はメモリーに入れておき、後続計算で再利用すると打ち間違いが減ります。実際、ある検証ではメモリー機能を使った場合、ケアレスミスが激減し正答率が約98%に上がったとの報告があります。また、「逆手」で(利き手とは反対の手で)電卓を操作すると、筆記用具との持ち替え時間が節約でき、計算速度が向上します。さらにブラインドタッチ(電卓を見ずに打つ)を習得すれば視線移動が減って正確さ・スピードともにアップします。 - 電卓テクニック
電卓のメモリー(M+、M-、MR)を使いこなしましょう。表示中の数値をM+やM-で記憶し、後でMR(またはRM)で呼び出せば、何度も数字を打ち込む手間が省けます。クリア(C/AC)ボタンの使い分けも重要です。一般的に、AC(全クリア)でメモリーと表示を両方クリア、C(またはCA)で直前入力だけクリア、MCでメモリーだけクリア、と使い分けて“必要な情報だけ消す”のが効率的です。 - 計算順序・手順例
- 与件から必要数値をピックアップし、電卓メモリーに登録(売上高、変動費、投資額など)。
- 計算公式を確認して、ステップごとに解答用紙に書く(たとえばCVPなら「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率」など)。
- 計算結果を導いたら、最終的な数値だけでなく計算過程も忘れず記入。
- 必要があれば、答えの前後で合計照合や逆算で検算し、数字がつじつま合うか確認する習慣をつけましょう。
以上を徹底することで、凡ミスはぐっと減らせます。特に計算過程の記入は非常に大事です。解答用紙を白紙で提出すると0点確定ですが、途中式でも書けば1点でもとれる可能性が高まり、合否を分ける1~2点につながるかもしれません。
4-3.記述問題の対策
事例Ⅳの記述問題は「与件企業の財務状況・課題把握と改善提案」が求められます。以下の点を押さえて練習しましょう。
- 財務指標分析
まず与件や財務諸表から必要な数値を計算・整理します。たとえば自己資本比率、売上総利益率、棚卸資産回転率、有形固定資産回転率などの基本指標5つを計算しておけば、解答に使いやすいです。これらを活用し、 例えば「A社の売上高総利益率は前期比5ポイント低下し、業界平均に比べても低水準です。粗利率低下は原材料費増大によると考えられ、収益性向上のためには…」といった形で述べると説得力が増します。 - 講評・問題点の書き方
問われている「財務状態・経営成績の特徴」や「課題と要因」には、数字を盛り込んで解説しましょう。たとえば「A社は売上構成比の高い製品群の利益率が低下し、営業利益率が前年より2%低下しています。原因としては原価高騰と新規顧客開拓の遅れが挙げられ、固定費負担も相対的に重くなっている様子です。」といった書き方です。与件の記述(市場環境や製品特性)と分析結果をつなげると、与件依存性の高い解答になります。 - 改善提案の構造
改善策を書く際は、①課題の指摘、②原因分析、③具体策の3段論法が基本です。たとえば「売上高が長期停滞している」のが課題なら、「新規販路開拓不足」が原因と考え、「オンライン販売の強化や市場調査による新商品投入」など具体的な提案をします。字数が限られる短文問題では、問題文で指示されたキーワード(「防ぐには」「提言する」など)に注意し、解答文を構造化しましょう。与件との接続も不可欠です。問題文ではA社の現状や事業内容が書かれているので、「与件文後半に『協力個人事業主の確保・育成と連携』と記載があることから、外部委託先のサービス水準向上が重要」と指摘する例のように、与件を引用して解答を裏付けると説得力が高まります。 - 短文論述のロジック
100字前後の設問では、論理的に簡潔にまとめます。まず問題点・影響を指摘し、次に具体策や結論で締めくくる形式が基本です。例えば「外部委託先の品質問題による風評被害のリスク」と課題を挙げた後、「委託先選定基準の見直しや自社トレーニング強化で品質管理を徹底する」といったアプローチです。言い切り文のほうが読みやすく、箇条書きのように簡潔にまとめるのがおすすめです。
全体として、「事例Ⅰ~Ⅲと同じく設問に沿って答える」意識が重要です。暗記した知識をただ並べるのではなく、与件から課題を読み取り、解決策を提案するスタンスで練習しましょう。過去問演習では、まず与件を要約し(例:主要製品、強み弱み、市場動向)、次に5大指標を計算しておくと、記述問題でスムーズに解答を組み立てられます。
5.終わりに
- 本稿では、中小企業診断士二次試験の事例Ⅰ~Ⅳの過去5年間(令和2年度~6年度)出題テーマを、社会情勢や法改正・経済環境とリンクさせて解説しました。各事例の出題は時代の潮流を反映し、「働き方改革」「コロナ禍」「DX推進」「SDGs対応」などが中心テーマです。
- 事例ごとに傾向があり、試験は常に「与件に忠実に現実的な解答を作ること」が合格の秘訣です。
- 事例Ⅰは事業承継・後継者育成、組織変革が継続的テーマで、業種別に老舗企業や物流、農業法人など多彩です。
- 事例Ⅱはマーケティング・販路拡大策が焦点。EC活用、地域ブランド、デジタルプロモーション、サブスク展開など多様化してます。
- 事例Ⅲは生産管理・技術革新が主題。IoT導入、無人化、工程改善、環境対応が重要で製造業の現場改革が問われます。
- 事例Ⅳは財務・会計の基礎から応用問題まで。経営分析、CVP、NPVなどの計算力と記述能力の両面強化が必要です。
本記事が今後の学習計画策定、効果的な過去問演習、2次試験本番での着実な得点獲得に役立てば幸いです。


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