7. NPV・IRRなどの投資意思決定
7-1.はじめに
設備投資や新規事業への資金投入を行う際に、その投資が本当に利益を生むかどうかを判断するための基準が「投資評価指標」です。
中でも代表的なのが「NPV(正味現在価値)」と「IRR(内部収益率)」です。
中小企業診断士試験では、これらの定義・計算方法・意思決定ルールが毎年のように問われます。
7-2.投資評価の基本的な考え方
投資判断の基本は、「投資によって得られるキャッシュフローの現在価値」と「初期投資額」とを比較して、その投資の収益性を評価することです。
| 投資評価における基本式 |
|---|
| 投資の価値 = 将来のキャッシュフローの現在価値 − 初期投資額 |
この考え方に基づいて使われるのが以下の2大指標です:
- NPV(Net Present Value:正味現在価値)
- IRR(Internal Rate of Return:内部収益率)
7-3. NPVの概要と意思決定ルール
■定義
NPVとは、「将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、初期投資額を差し引いた純粋な価値」です。
■計算式
NPV=t=1∑n(1+r)tCFt−初期投資額
- CFt:t年目のキャッシュフロー
- r:割引率(資本コスト)
- n:投資期間
■意思決定ルール
| NPVの値 | 投資判断 |
|---|---|
| NPV > 0 | 投資すべき(価値を生む) |
| NPV = 0 | 実施しても可 |
| NPV < 0 | 投資すべきでない |
■特徴
- 資本コストを考慮するため、経済合理性に優れている。
- 複数の投資案を比較する場合にも有効。
7-4.IRRの概要と意思決定ルール
■定義
IRRとは、「NPVが0になる割引率」のこと。
つまり、投資によって得られるキャッシュフローの収益率を示します。
NPV=0となる r=IRR
■意思決定ルール
| IRRと資本コストの関係 | 投資判断 |
|---|---|
| IRR > 資本コスト | 投資すべき |
| IRR = 資本コスト | 実施しても可 |
| IRR < 資本コスト | 投資すべきでない |
■特徴
- 直感的に「利回り」として理解しやすい。
- ただし、複数のIRRが存在するケース(非定常CF)や比較の誤差が出る場合も。
7-5.NPVとIRRの比較
| 項目 | NPV | IRR |
|---|---|---|
| 単位 | 金額(例:万円) | パーセント(例:15%) |
| 比較基準 | 絶対額(最も利益が大きいものを選ぶ) | 利回り(資本コストを上回るか) |
| 優位性 | 客観的で複数案比較に強い | 感覚的に理解しやすい |
| 弱点 | 割引率の設定が必要 | 非定常CFでは誤差、複数IRR問題あり |
7-6. 関連指標(試験頻出)
| 指標名 | 定義・計算式 | 解説 |
|---|---|---|
| 回収期間法 | 投資額を回収するまでの年数 | キャッシュフローの早さ重視 |
| 割引回収期間法 | 割引後CFで投資額を回収するまでの年数 | 資本コストを考慮する点が重要 |
| PI(収益性指数) | 現在価値 ÷ 初期投資 | 1以上なら実施可、複数案比較に有効 |
7-7. 中小企業診断士試験での出題パターン
- NPVやIRRの計算問題(表形式で与えられるキャッシュフローから)
- 割引率を指定しないIRRの導出問題(手計算 or 試行錯誤)
- 投資案の比較問題(NPVが最大か、IRRが基準を超えているか)
- 資本コストに対する考え方(WACCとの関係)
7-8.グラフによる理解:NPVとIRRの関係図
以下は、NPVと割引率の関係を表したグラフです(概念図):
NPV
│
│ /
│ /
│ /
│ / ←(NPV = 0)ここがIRR
│/________________________ 割引率 →
7-9.実務での応用
中小企業でも、設備導入・店舗出店・人材投資などの意思決定で、将来の収益性を試算して判断することが必要です。
診断士としては、単なる定量判断だけでなく、以下の点を組み合わせてアドバイスします:
- CFの前提条件(売上・経費・稼働率)が現実的か
- 資本コストの設定が妥当か(WACC or 要求利回り)
- リスクの把握と定性的補足(競合・法改正・トレンド)
7-10.まとめ
NPV・IRRは、企業の投資判断における中核指標です。
中小企業診断士試験では、正しい定義・計算方法・意思決定ルールの理解が問われます。
実務上でも、これらの指標を根拠として、経営者が納得できる意思決定の支援を行うことが重要です。
8. 資本コスト(WACCなど)
8-1.はじめに
企業が事業に投資を行う際には、外部や内部から資金を調達します。
その資金の「コスト」が資本コストです。
資本コストを正確に見積もることで、投資案の評価(NPV、IRR)や企業価値の分析が可能になります。
中小企業診断士試験では、「資本コストの構成要素」「WACCの計算」「自己資本・負債コストの違い」などが頻出です。
8-2.資本コストとは何か?
資本コストとは、「企業が事業を行うために必要な資金を調達する際に負担するコスト(必要とされるリターン)」を指します。これは以下の2つから構成されます。
- 自己資本コスト(株主が期待するリターン)
- 負債コスト(借入や社債などにかかる利息)
8-3.WACC(加重平均資本コスト)の定義と計算式
■定義
WACC(Weighted Average Cost of Capital)とは、自己資本と負債のコストを資本構成比率で加重平均した値です。
■計算式
WACC=E/V×Re+D/V×Rd×(1−T)
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| E | 自己資本(Equity) |
| D | 負債(Debt) |
| V | 資本合計(E + D) |
| Re | 自己資本コスト(株主の期待収益率) |
| Rd | 負債コスト(借入利子率など) |
| T | 法人税率 |
※負債コストは節税効果(タックスシールド)を考慮し、(1 – T) を掛ける点に注意!
自己資本コストは、株主が要求する最低限の収益率です。主にCAPM(資本資産評価モデル)を用いて算出されます。
Re=Rf+β×(Rm−Rf)
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| Rf | 安全資産の利子率(無リスク利子率) |
| β | 株式の市場リスクに対する感応度 |
| Rm | 市場ポートフォリオの期待収益率 |
β(ベータ値)が高いほど、株主はリスクを嫌い、より高い収益を要求します。
8-4.負債コスト(Rd)の算出法
負債コストは、企業が借り入れなどで資金調達する際の利息コストです。
- 一般には借入金利や社債の利率などが用いられる。
- 税引き後コストにするために、(1 – T) を掛ける必要があります。
8-5.WACCの使用目的
WACCは以下の場面で使用されます:
| 使用目的 | 解説 |
|---|---|
| 投資案件の評価(NPV, IRR) | WACCを割引率として用い、収益性を評価する |
| 企業価値評価(DCF法など) | フリーキャッシュフローをWACCで割り引く |
| 財務戦略(資本構成の最適化) | WACCを最小にする資本構成が望ましい |
8-6.資本構成とWACCの関係
以下のような関係性があります:
- 負債比率を上げると、一時的にWACCが下がる(負債はコストが低く、税効果もある)
- しかし過度な負債は財務リスクを高め、自己資本コストも上昇する
そのため、最適なバランス(最小WACCとなる資本構成)が企業価値を最大化します。
8-7.WACCのグラフイメージ
資本コスト(%)
│ /\
│ / \
│ / \ ← WACC(最小値)
│ / \
│__________→ 負債比率
- 左側:負債比率を増やすとWACCが下がる(タックスシールド)
- 右側:過度な負債はWACCを押し上げる(リスク増)
8-8.中小企業診断士試験での出題傾向
試験では以下の形式で頻出します:
| 出題形式 | 内容例 |
|---|---|
| 計算問題 | WACCの具体的計算 |
| 概念理解 | 自己資本・負債コストの違いや税効果 |
| 選択肢の正誤判断 | 「負債比率を上げれば常にWACCは下がるか?」など |
8-9.実務への応用
中小企業においては、WACCを厳密に算出することは困難な場合もありますが、以下の観点で活用可能です:
- 投資判断の際、資金の調達方法に応じてリターン目標を設定する
- 銀行借入だけでなく、補助金・出資などの調達手段を比較する際の根拠にする
- 「自己資金100%は安全だが資本コストが高い」という理解で財務戦略を議論できる
8-10.まとめ
WACCは、企業の資金調達コストを総合的に評価する重要な指標であり、投資判断や企業価値評価の基礎になります。中小企業診断士としては、以下の観点を押さえておくことが重要です。
- 自己資本コスト・負債コストの違いを理解する
- 資本構成の変化がWACCに与える影響を把握する
- 現実的な資本コスト(実行可能な調達手段に基づく)を設定し、意思決定支援に活用する


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