9. キャッシュフロー計算書
9-1.はじめに
キャッシュフロー計算書(以下、CF計算書)は、企業の現金の流れ(キャッシュの出入り)を明らかにする財務諸表の一つで、現金主義に基づいて作成されます。
損益計算書では見えにくい「現金の実際の動き」が把握できるため、財務分析や経営改善において極めて重要です。
9-2.キャッシュフロー計算書の目的
CF計算書の目的は、企業の「資金繰りの健全性や将来の資金余力」を明らかにすることです。
損益計算書と異なり、非現金取引(減価償却や売掛など)を排除し、「現金収支」に注目します。
9-3.キャッシュフローの3区分
CF計算書は以下の3つの活動ごとに分類されます。
| 区分 | 内容の例 | 重要度 |
|---|---|---|
| 営業活動によるCF | 本業の収入・支出(営業収益、仕入、人件費など) | 企業の本質的な収益性を示す |
| 投資活動によるCF | 固定資産の取得・売却、有価証券購入・売却など | 将来への成長投資を示す |
| 財務活動によるCF | 借入や返済、株式の発行・配当など資金調達に関する活動 | 資金繰りや資本構成の変動を示す |
9-4.営業活動によるキャッシュフロー(CF)
営業CFは「企業が本業で得た現金収支」を示します。中小企業診断士試験でも最頻出テーマです。
■直接法
収入と支出を現金の種類別に表示します。
| 区分 | 金額(例) |
|---|---|
| 商品の販売による収入 | +5,000 |
| 原材料仕入による支出 | -2,000 |
| 人件費の支出 | -1,000 |
| 支払利息の支出 | -300 |
| ⇒ 営業CF合計 | +1,700 |
※「直接法」は理論的には明確で分かりやすいが、実務ではあまり使われない。
■間接法
当期純利益から非現金項目や運転資本の変動を調整して算出します。日本企業では一般的です。
営業CF = 当期純利益
+ 減価償却費(非現金費用)
± 売上債権・仕入債務の増減
± その他の調整項目
| 項目 | 金額(例) |
|---|---|
| 当期純利益 | +1,000 |
| 減価償却費 | +500 |
| 売上債権の増加(資金減) | -300 |
| 仕入債務の増加(資金増) | +200 |
| ⇒ 営業CF合計 | +1,400 |
9-5.投資活動によるキャッシュフロー
将来の成長や維持に必要な投資の現金収支です。
| 内容 | CF(例) |
|---|---|
| 有形固定資産の取得(マイナス) | -1,000 |
| 有価証券の売却(プラス) | +500 |
| ⇒ 投資CF合計 | -500 |
投資活動によるCFがマイナスであっても、それが将来の利益に結びつく投資であれば問題はありません。
9-6.財務活動によるキャッシュフロー
資金調達や返済に関する現金の流れを示します。
| 内容 | CF(例) |
|---|---|
| 長期借入による収入 | +1,500 |
| 社債の償還による支出 | -800 |
| 配当金の支払い | -200 |
| ⇒ 財務CF合計 | +500 |
9-7.キャッシュフロー計算書の全体イメージ(図解)
┌──────────────────────────────┐
│ キャッシュフロー計算書 │
├───────────┬──────────────┤
│ 営業活動CF │ +1,400円 │
│ 投資活動CF │ -500円 │
│ 財務活動CF │ +500円 │
├───────────┴──────────────┤
│ 現金の増加額│ +1,400円 │
└──────────────────────────────┘
9-8.財務分析との関係
CF計算書は、損益や貸借だけではわからない資金繰りの安定性・成長力を見る材料になります。
| 財務分析での活用 | 見方のポイント |
|---|---|
| 営業CFが黒字か? | 赤字なら、本業で現金が稼げていない可能性あり |
| 投資CFがマイナスか? | 成長投資をしている証拠、内容次第ではポジティブ |
| 財務CFがプラスか? | 借入や増資で資金を補っている状況を示す |
9-9.中小企業診断士試験での出題傾向
過去問では以下のような観点から出題されています:
| 出題形式 | 内容例 |
|---|---|
| 間接法の計算問題 | 減価償却や運転資本変動を加減して営業CFを求める |
| 区分判断問題 | 〇〇は営業活動か?投資活動か?など |
| 正誤判断問題 | 営業CFがマイナスであれば企業は黒字とはいえない? |
9-10.実務上の意義と中小企業への応用
中小企業では、現金収支の可視化が経営改善に直結します。
- 黒字倒産のリスクを回避(利益は出ていても資金が不足して倒産するケース)
- 金融機関との融資交渉に使える(営業CF黒字は信用評価が高い)
- 補助金申請や事業計画でもCFベースでの説明が求められることがある
9-11.まとめ
キャッシュフロー計算書は、「儲かっているのにお金がない」といった経営の実態をつかむために不可欠なツールです。
10. 減価償却(定額法・定率法・償却資産)
10-1.はじめに
減価償却は、固定資産(建物・機械・設備など)の取得価額を使用期間にわたって按分し、費用(費用化)として振り分ける会計手法です。
企業の利益に直接影響し、キャッシュ・フロー計算書にも連結されるため、中小企業診断士一次試験でも重要なテーマです。
ここでは、主要な償却方法とその影響、税務との関係、実務上の留意点を網羅的に整理します。
10-2.減価償却の目的と基本概念
- 目的:固定資産はいずれ使用価値が減少するため、使用期間に応じて費用化し、正確な利益計算を行う。
- 対象資産:取得価額が資本的支出に該当し、使用期間が1年以上かつ一定金額以上のもの(例えば50万円以上)を固定資産として認識。
- 会計上の区分:
- 有形固定資産:建物、機械設備、車両など
- 無形固定資産:ソフトウェア、特許権など
減価償却費は、損益計算書の費用として計上され、貸借対照表では資産の帳簿価額が減少します。
10-3.主な償却方法と計算式
10-3-1.定額法(Straight-Line Method)
- 特徴:毎年同額の減価償却費を計上する方法で、会計上の基本方式。
- 計算式: 減価償却費=取得価額–残存価額耐用年数減価償却費 = \frac{取得価額 – 残存価額}{耐用年数}減価償却費=耐用年数取得価額–残存価額
- 取得価額:固定資産の購入価格+取得費用
- 残存価額:使用後の資産価値(通常は取得価額の5%程度)
- 耐用年数:資産ごとに税法(法定耐用年数)で定められています。
10-3-2.定率法(Declining Balance Method)
- 特徴:取得から初期の償却が大きくなる方式。会計期間初期に費用を多く計上して利益調整に利用しやすい。
- 計算式: 当期減価償却費=帳簿価額(期首)×償却率当期減価償却費 = 帳簿価額(期首) × 償却率当期減価償却費=帳簿価額(期首)×償却率 償却率は税法上定められており、期首の帳簿価額にかかる。
10-4.定額法と定率法の比較
| 項目 | 定額法 | 定率法 |
|---|---|---|
| 償却費の分布 | 均等 | 初期多く、後期少なく |
| キャッシュフローへの影響 | 平準化 | 初期に費用が集中し利益抑制に有利 |
| 税務上の有利性 | 安定的 | 初期の節税効果が高い |
| 会計・税務の一致性 | 高い(会計=税務処理) | 一部異なる(帳簿価額への影響あり) |
10-5.償却資産と税務的考慮
- 税法上の耐用年数:資産ごとに耐用年数が法定されている(例:機械10年、車両6年など)。会計帳簿処理では同数値が利用されることが多い。
- 税額調整効果:償却方法の選択で経営者は税金の支払い時期を調整可能。初期に減価償却費を大きく取ることで課税所得を抑え、節税可能。
- 税務申告との整合性:会計で定率法だが、税務上別の方法を選択する場合は調整が必要。
10-6.試験でよく問われる論点
- 計算問題:取得価額・残存価額・耐用年数に基づく減価償却費の算定。
- 償却方法の比較:「初期費用を多くするなら定率法」「費用平準化は定額法」など理解。
- 損益・キャッシュフローへの影響:どちらの方法が資金繰りに有利かの評価。
- 税務制限下での応用:耐用年数や償却率の理解、節税効果の知識。
10-7.実務上の意義と活用
- 設備投資評価:回収期間やキャッシュフロー予測で減価償却の影響を考慮。
- 資金繰り計画:定額法による平準化が資金繰りの予測に有用。
- 節税戦略:定率法の初期償却で実際の税負担をタイミング調整。
- 会計制度選択:簿価残高との整合性を考えて合理的な償却制度を選択。
10-8.図解イメージ:償却費の推移
【償却費の推移イメージ】
償却費
▲
│ 定率法(逓減)
│ /
│ /
│ /───────────
│ 定額法 ───────────────────
│
└──────────────────────────▶ 年度
- 定額法:毎年同じ償却費(水平方向)
- 定率法:初期大きく、年度経過で急減(弧を描くように下がる)
10-9.実践的な計算例
- 取得価額:200万円、残存価額:20万円、耐用年数:10年
- 定額法償却費=(200−20)÷10=18万円
- 定率法(償却率20%とする):
- 初年度:200×20%=40万円、
- 2年目:160×20%=32万円、
- 3年目:128×20%=25.6万円、…と年度ごとに逓減
10-10.学習・試験対策のポイント
- 定額法・定率法の定義と計算方法を確実に理解。
- 減価償却費が利益とキャッシュフローにどう影響するかを把握。
- 耐用年数や税法上の基準に注意し、語句問題への対応も準備。
- 過去問で類似の計算問題を繰り返しトレーニング。
10-11.まとめ
減価償却は単に費用計上の手続きだけではなく、利益・税金・資金繰りに密接に関わる重要な要素です。製品1つ1つのコスト構造や設備投資判断にも影響を与えるため、定額法・定率法の選択肢・影響を理解し、実務に活かせる知識を身につけることが求められます。試験対策としては、理論と計算の両面から準備を進めることが合格への鍵です。


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